例えばこんな日常
第7章 99.9%難しい恋/MO
「君は…どうなんだ…?
俺の、気持ち…し、知ってたんだろう…?」
ヤツの顔を窺いながら、慎重にそう問いかける。
ずっと、分かってたなら…
答えはきっと…
「どうって…」
耳たぶを触りながら考える仕草を見せて、またこちらを見つめた。
「…事実が明らかになればそれでいいので。
鮫島さんが100%僕を好きなことが分かったんで、それでいいです」
さらっとそう言うと、床に落ちていた手帳を拾い上げてリュックにしまい、勝手に帰り支度を始める。
…は?
「まっ、待て!ぜんっぜんよくない!
そんなのっ、独りよがりじゃないか!
お、お前の気持ちはどうなんだと聞いてるんだ俺は!」
全く通じ合わないもどかしさに声を荒げる俺をよそに、ヤツは何食わぬ顔でポケットから飴を出してぽいっと口に放る。
「…食べます?」
「いらん!だからっ、」
「あのー、」
口の中の飴を転がしつつ、俺の言葉を遮ってずいっと目の前まで迫ってきて。
…っ!
急な近距離に慌てて後ずさるが、デスクに腰が当たって思わず手をついてしまった。
目の前には、整ったヤツの顔。
コロコロと飴を動かすその唇は、艶やかな色を帯びている。
ヤバい…
「…み、みやま、」
「はい、深山です」
ニッと上げられた口角に目を奪われていると、ふいに柔らかいものが唇に触れた。
ほのかに甘い香りと、しっとりした感触。
見開いた目に映る伏せられた長い睫毛が離れていき、そのまま視線が重なって。
「…僕、事件以外のことは興味なくて。
だけど…あなたには興味が湧いてきました」
そう言ってまた綺麗に笑うと、固まる俺の手をぎゅっと握った。
「ではまた」
パタンと閉められたドアをぼんやり見つめ、ふと右手の違和感に気づきそっと手を開くと。
飴の包みに"おめでとうブドウ糖"の文字。
ようやく思考回路が動き始めたと同時に、一気に現実に引き戻されて。
…まっ、いまっ!キス…!
口を覆って思わずへたりこんでしまった。
高鳴る心臓の音が鼓膜に響く中、さっきの光景が何度もフラッシュバックされる。
俺は…
ついに…!
-こうして、99.9%難しいと思っていた恋は、思わぬスタートを切ったのだった。
…たぶん、きっと。
end(?)