例えばこんな日常
第7章 99.9%難しい恋/MO
慌てて両手で口を押さえて、ふらっと後ずさる。
"スキ"と言う前に、"キス"をしてしまった…!
わずかに残る唇の感触に浸る間もなく、頭の中をフル回転させて言い訳を考えて。
どうする…!?
あっ!足元がふらついてっ!
違うな、わざとらしすぎる…
えっと…あ、口になにか付いてたぞ!
…いやダメだ、ありえない。
くそっ…!
どうしたら…
「…信じられない、」
ぐるぐるとありあわせの思考を巡らせているところに、目下から小さな呟きが聞こえた。
目を下げると、ヤツが未だ口元に手を当てたまま眉間に皺を寄せてこちらを見上げていて。
その眼差しに、羞恥と罪悪感が募って胸がチクリと刺された。
あぁ…
もう、終わったな…
心の中でそう確信して謝罪の言葉を探そうとすると、ふいにヤツが立ち上がってゆっくり口を開いた。
「…まさか、こんなことだったなんて」
瞳を揺らしながら、でもどこか強い眼差しでまっすぐ見つめてそう言われて思考が停止する。
…え?
「99.9%そうだと思ってましたけど…
どうしてもあと0.1%の確証がなくて。
なるほどねぇ…そういうことでしたか」
感心したように頷きながら喋り続ける。
…ちょ、ちょっと待てっ!
「っ、さっきから何を言ってる!」
「え?いや、鮫島さん僕のこと好きでしょ?」
「えっ!?」
「え?」
「…えぇっ!?」
「え〜?」
あまりの驚きに声が裏返った俺を楽しむように、ヘラヘラ顔で覗き込んでくる。
まさか…!
「き、気づいてたのかっ…!?」
「えぇ、もちろん」
「いつから!」
「契約の時から」
「なっ…!」
なんだとっ…
最初からバレバレだったのかっ!?
にやにやしながら依然こちらを見つめるヤツを前に、恥ずかしさで頭が爆発しそうだった。
ふらつきながらデスクに寄りかかり、額の汗を拭う。
はっ…!
待てよ、ということは…
「…だったら、」
言いながらゆっくり顔を上げると、眉を上げて続きを促すような視線と合わさった。