例えばこんな日常
第8章 厄介なヤツと夏/AN
長かった鬱陶しい梅雨が明け、からりと晴れ渡る青空がここから見え隠れする。
網戸越しに惜しみなく注がれる陽射しは、遮光カーテンをもくぐり抜けて体の右半分に突き刺さっていて。
時折そよそよと温い微風が入ってくるだけで、その中途半端さにも大概嫌気がさしていた。
ゲーム画面の映るテレビから視線を外さず、あぐらの中心の手元を動かしつつポツリお伺いを立ててみる。
「…ねぇ相葉さん、」
「…んー?」
…あ。
後ろのソファから聞こえたその間延びした声は、明らかにトロトロしてた感じで。
「なに眠いの?」
「ん?んー…いや、」
「ねぇつけていい?エアコン」
「…え、まだ10時じゃん」
眠たそうなクセに案外はっきりと返された言葉に、分かってたけどげんなりした。
相葉さんちには幾つかのルールがある。
"午前中は冷房を入れない"っていうのもその一つ。
"午前中"といっても、時間の境目なんて決めてるわけじゃなくて。
それに、今日の暑さはそんなルールなんか通用しない。
このままだと、俺死んじゃう。
「ねぇ入れようよ、」
「こっちくれば?そこ暑いでしょ」
「やだよ。ここがベストだもん」
俺のお願いへの逆提案にも微動だにせず答えてやる。
そう、ゲームの時はこの位置って決めてるんだから。
我ながらワガママな言い分だけどこれだけは譲れない。
「ふふ、なにそれ。そんなの却下」
「なんでよ。正当な理由でしょ」
「もうそれやめてこっち来なよ」
「やだ」
真後ろから聞こえる相葉さんの声はどこか楽しそうで。
気付けばどこからともなく蝉の鳴く声が響きだし、より一層の暑さを演出させている。
あーもう…
「…ねぇもう無理、…っ!」
振り返って再三のお願いをしようとした時、背中にドンっと衝撃が走った。
その弾みで、握っていたコントローラーが手から滑る。
「…ちょ、もーあっついって!」
ソファからずり落ちるようにして背中に覆いかぶさられ、一瞬にして重みと熱気が伝わってくる。