
例えばこんな日常
第9章 いてもたってもいられない/AN
ふわふわとした良い気分でビールジョッキを傾ける。
定例になったマナブメンバーでの飲み会。
今日の幹事はサワベ。
向かいの渡部さんもいい感じに酔って、更に饒舌になってて。
今日のロケはいつにも増して手応えがあったから、その話がみんなのいい酒の肴になってる。
ふいに、テーブルの隅に置いてたスマホがぶるっと震えた。
サワベの話に笑いながらちらっとスマホを確認すると、メッセージ受信の通知が。
『にのが写真を送信しました』
そう書かれた通知に画面をタップする。
…ふ、なんだこれ。
そこには、トマトが輪切りにされただけの何ともシュールな写真。
そのすぐ後、シュッと音を立てて現れた吹き出しには。
『ねぇ見て。すげー薄く切れた』
という謎のメッセージ。
思わずふふっと声に出して笑う。
…なにやってんだアイツ。
今日飲み行くって知ってんのに。
…くふ、寂しくなっちゃったか。
「なに笑ってんすか相葉さん。
…え、なに見てんすか?」
隣のサワベがニヤける俺に気付き、スマホを覗き込んできた。
「あっ、おい勝手に見んな!」
「え、ちょなんすか今の!トマト?
え?なんすか!」
トマトの写真見てなに笑ってんすか!とイジる気満々のサワベ。
「あぁトマトだよ!なんか文句ある?」
「はぁ!?なんなんだこの人!」
逆ギレ顔を作ってそう言うと、サワベも乗っかってきていつものツッコミが入る。
「そんな面白いトマトなら俺も見たいわ」
すると、ワインを飲みながらにこにこ顔の渡部さんも参戦してきて。
…もう、しょうがないなぁ。
二人にスマホの画面を見せると、一瞬固まってすぐに揃って吹き出した。
「なにこれほんとのトマトじゃん!」
「なんなんすか!なんでただのトマト見せられてんすか俺ら!」
「だからトマトだって言ったじゃん!」
爆笑しながら騒ぐ二人をよそに、トマトの下のメッセージをもう一度見て頬が緩む。
これ、既読になったの確認して絶対嬉しい顔してるよ。
渡部さんたちに見えない牽制かけてんだよね?
俺のこと忘れてないでしょうね?ってことでしょ。
ふふ…もうたまんないな。
スマホの時間を確認して、ジョッキに残るビールをぐいっと一気に飲み干した。
