
例えばこんな日常
第9章 いてもたってもいられない/AN
テーブルに缶ビールとトマトを置いて、ソファを背もたれに寛ぐ。
今日はオフで、昼過ぎからここに入り浸ってる。
相葉さんは朝からマナブのロケで居ないのは知ってた。
ついでに今日飲みに行くのも知ってた。
…全部知ってんだけど、来ちゃうんだよね。
ビールを傾けながらスマホを覗くと、さっき送った写真が既読になってて。
あ、見た。
…どんな顔してんのかな。
もしかして俺の話とかなってたりして。
あの人すぐデレた顔するから勘付かれないかな。
まさか言っちゃわないよね?
んふふ…ばーか。
含み笑いながら、改めて薄く切れたな、と我ながら感心しつつトマトを摘まんで口に放る。
今日はなんとなくゲームの気分じゃない。
テレビのリモコンを手に録画されている番組を探す。
…あ、これ見よ。
この前見逃しちゃって録画もできてなかったんだ。
画面に映る相葉さんの顔をつまみにビールを流し込んでいく。
話を聴く時の真剣な顔。
面白いことを思いついた時の顔。
それを言ったあとの満足気な顔。
目尻にこれでもかってくらい皺をたたえて笑う顔。
…うん、これだなやっぱ。
たまに思うんだよな。
この顔、俺だけに向けてくんないかなって。
そんなの無理だって分かってんだけどそう思っちゃうんだよ。
それくらい…
好きなんだよ、もう。
画面越しに笑いかけてくるその顔を見てると、なんだか無性に相葉さんに会いたくなってきた。
ビールをぐいっと飲み干して、ソファに這い上がる。
端っこの背面にもたれて、ぼんやりと画面を見つめて。
ふぅっと息を吐くと、頭がふわふわして心臓がとくとくと早まった。
あれ、もう酔った…?
そんなに飲んでないのにと思いつつ、手の甲を頬に当てると明らかに火照っていて。
そして、自覚のない現象がもうひとつ。
…あ、れ?
あぐらの中心に置いていた、右手の違和感。
うわ、俺…
相変わらず楽しそうな笑顔を見せる相葉さんをちらっと見やる。
相葉さんが恋しくなって…
俺…
画面越しに、欲情しちゃってんの…?
そう思ったらものすごく恥ずかしくなって、思わず傍にあったクッションに勢い良く顔をぼふっと埋めた。
