
例えばこんな日常
第9章 いてもたってもいられない/AN
クッションに埋めた顔をぐるっとテレビの方へ向ける。
一度覚えてしまった疼きは簡単に消える訳はなく、画面の中の相葉さんの笑顔や話し声に完全に心を奪われて。
…まだ、帰ってこないよね。
きっとまだワイワイやってる最中だろう。
なら…ちょっとだけ…。
クッションを乗り越えて、サイドボードのティッシュケースを取る。
傍らに置いて、テレビのリモコンも手元に準備して。
さっきまで観てた番組を、頭から再生した。
流れ出す聴き慣れた声は、いつも優しく俺を呼ぶ声に。
煌めく瞳は、俺だけを見つめる熱を帯びた視線に。
頭の中で勝手にそう変換して、火照りを増す自身にそっと手を忍ばせる。
…っ!
うわ、もう…
指先にぬるっとした感触を受けて、思いのほか興奮してる自分に顔が熱くなった。
画面に映る相葉さんの顔を瞼に焼き付けて、ぎゅっと目を閉じる。
スウェットに潜らせた左手に、相葉さんの骨ばった男らしい手を重ねて。
先からじわっと滲むソレを纏わせ、いつもしてくれる様に動かしてみる。
『…にの、気持ち良い?』
耳元で囁くその音を呼び起こして再生すると、またじわりと密が溢れた。
相葉さん、もっと…
もっと、して…
心の中で呟いて、左手を上下にゆっくり動かす。
遠くで聞こえる心地良い声を意識の片隅に置き、ソファの背に頭を沈めて脳内の相葉さんに身を委ねた。
『にの…こっちも好きだもんね?』
よれたTシャツの裾から右手を差し入れ、指先でそっと触れると。
「…んっ、」
思わず声が漏れて、まるで触られてるみたいにジンジンする。
左手はイイ所を追い立てる様に動かし、右手は強弱をつけて弄るのが相葉さんのやり方。
「…っ、はぁ、」
優しくて艶っぽい瞳で見つめながら、確実に俺を悦ばせる術を知ってるんだ。
『にの、気持ち良い?
…イっていいよ』
あ…もう、だめ…
相葉さん…相葉さんっ、
「…ん、あいばさ、」
「…うん?」
ふいのその声は、頭の中じゃなく確かに耳元で響いた。
…え、
目を開けようとすると、柔らかい感触が唇にぐにっと押し付けられて。
逆さまに重なってるにも関わらず、しっとりと馴染むソレは確認なんてするまでもなく。
…っ!
あいばさん…!
