
例えばこんな日常
第9章 いてもたってもいられない/AN
「じゃあまたね」
「お疲れさまでした!」
「サワベごちそうさまー!」
結局あのあと、謎のトマトを送りつけたのはにのだったことがバレて、また散々ツッコまれた。
どんだけ仲良いんだとか、こんなこといつもやってんのかとか。
終いには『付き合ってんじゃないか』と疑われて、危うく本当のことを言ってしまいそうになった。
ふわふわした心地の中、タクシーに乗りにのにメッセージを送る。
『今から帰るよ。待っててね、にのちゃん』
ふふっと自然に笑みがこぼれる。
帰ったら、にのがいる。
俺のこと待ちくたびれてんでしょ?
ふふ…
あ~早くにのに会いたい。
車窓から流れる景色を眺めつつスマホに目をやると、にのへのメッセージにまだ既読がついていない。
留守番してる時のにのは、俺からのメッセージには反応が早いのに。
風呂かな?
もしかして寝てる…?
寝てるかも、と思ったらなんだか俺にも睡魔が襲ってきて。
心地よい揺れに身を任せて、重くなる瞼に逆らわず目を閉じた。
***
玄関のドアを開ける前にもう一度スマホを見ても、まだ既読はついていない。
やっぱり寝てんのか…
静かにドアを開けると、リビングへ続く廊下に灯りが漏れていて。
テレビでも観ててソファでうたた寝、ってとこか。
なるべく静かに近付いて、そーっとリビングのドアを開ける。
…ふふ、やっぱり。
ソファの背に預けた頭が半分見えて、案の定テレビはついたまま。
あ、俺の番組じゃん。
もう…そんなに俺のこと待ってたの?
思わず笑みが声に出てしまいそうになるのを堪えて、足音を立てないように近付くと。
…ん?起きてる、
「…っ、はぁ、」
その声に、ひゅっと息が止まった。
後ろからだからちゃんと確認できないけど、まさかこれって…
一人でシてる…?
その距離1mほど。
多分にのは、俺に気付いていない。
時々漏れるにのの耐えるような小さい声と、自身を慰めるいやらしい音。
「…ん、あいばさ、」
ぐっと頭をソファに預け、うわ言のように俺を呼ぶにのの顔は。
ぎゅっと目を瞑って、頬をほんのり染めて、僅かに開いた口から吐息を漏らしてて。
その様子に酔いも一気に醒めて、体中の血が泡立つ感覚になった。
