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秘密中毒

第15章 再出発



…………

あの人はゲートに向かった。

その後であたしがさめざめと涙を流していても、

空港なら変じゃないかもしれない。

誰かとの別れがつらくて泣いてるんだと、周りが思ってくれればいい。

今日までにあの人のことはたくさん考えた。涙も流して、気持ちに決着をつけた。

でも山田くんのことは、あの最後の日から考えないようにしてた。

それなのにあの人の話。

泣いてたあたしを送ってくれた後、ずっとドアを見つめていた山田くんを想像したら、
あたしの涙のダムは決壊した。


最後に会った日、
たまご焼きの隠し味を「身体に聞いてやる」って言ってたけど

山田くんはあたしを追い詰めて言わせたりはしなかった。

あたしの身体中にキスして、優しくしてくれた。

それはやっぱり変になっちゃうくらい気持ちよかったんだけど。

なんでだろうって思うの。
意地悪でも、優しくされても、山田くんに抱かれてると

気持ちよくて仕方がなくて。
幸せになってしまう。

あたしが山田くんを好きだから。
身体と心で感じてる。

それもそう。

だけど山田くんも、あたしをよく見てないとあんなふうにできないはず。
あたしの反応とか顔とか声とか全部、見ていて受け入れてくれた。

もっと気持ちよくさせようとしてくれた。

あたしは、山田くんにちゃんと愛されてたんだ。
セックスのとき。
看病してくれたとき。
公園で見つけてくれたとき。
家に入っても見ていてくれたとき。

…………
…………

ああ、なんであたし、ハンカチ持ってこなかったの。

ラウンジに備え付けの薄い紙ナプキンじゃ、あたしの涙と鼻水はぬぐいきれなくて。

カッコ悪いな、ホント…………




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