和服男子に恋されて
第1章 告白
眼鏡を掛けていると分かり辛いが、切れ長の綺麗な目と高い鼻。
整った顔立ちというのは、龍一の顔のことを指すようなもので。
そんなルックスを持つ龍一から手を握られるなど、弥子には初めての感覚だった。
だがその事に龍一は一切気付いておらず。
「小説だけではなく、私のことも大好きになって貰わねば」
そう冗談交じりに言うと、もう片方の手で弥子の手に小説を握らせ、両手を一緒に弥子の手から離す。
そして弥子の肩まで伸びる黒髪を、愛おしそうに一度だけ優しく撫でた。
「……先生、私……別に先生のことが嫌いというわけじゃなくて……」
話しながら龍一からニコッと微笑まれると、弥子は何故かホッと安心する。
髪を撫でられたことにより速まった鼓動も、紅潮していた頬の熱もだんだんと普段通りのものへ戻っている気がした。
「分かってますよ。私が異性として感じられないんでしょう? ゆっくりで良いですよ。好きになって貰えるまで、私はいつまでも待ちますから」
大らかな笑顔と包容力のある龍一の言葉を、ただ信じるしかなく。
「ただ……少しずつ異性として意識して貰えるように、私も何かしらの努力はしますけどね」
「努力……?」
龍一がいう努力というのが弥子にとって大変なことになるだろうとは、まだこの時の弥子は気付いていなかった。