和服男子に恋されて
第1章 告白
***
翌日になっても、弥子は未だ昨日の龍一からの告白に戸惑いを隠せなかった。
(覚悟しておいてくださいって……どうしたら良いの……)
これまで特別龍一のことを意識したことがなかった弥子は、龍一の前でどんな態度でいれば良いのか分からず。
龍一と接する時、自然と緊張してしまっていた。
龍一と弥子の年齢差が十歳ということもある。
弥子にとっては龍一は大人びて見え、自分が凄く幼稚に感じ、その為恋愛対象として見られるわけなどないと鷹をくくっていたのだ。
今回の告白は、弥子の価値観を崩すきっかけともなった。
龍一から異性として意識されていると知り、今までと同じような態度でいられる筈がなく。
「先生、珈琲をお持ちしました……」
午後三時。
書斎で執筆中の龍一に、珈琲を運ぶ時間。
だが普段のように龍一の顔をまともに見れず、弥子は視線を下げがちにお盆から珈琲カップを机の上に置いた。
そんな弥子とは反対に、椅子に腰掛けたまま龍一はパソコンから視線を弥子の方へ移すと。
何事もなかったかのようにふわりと微笑む。
「ありがとう」
パソコンの画面には、つらつらと文章が綴られており。
龍一が執筆に集中していた事が見て取れる。
その為折角の仕事を邪魔しないようにと弥子は頭を下げ、書斎から出て行こうとするが。
「では、これで……」
「ああ、そうだ。弥子さんに渡したいものがあったんです」
続けて龍一から話し掛けられると、ピタッと立ち止まり、龍一の方を振り返った。
(渡したいもの……?)
そう不思議になるが龍一が机の引き出しからすぐに何か取り出し、差し出してくると。
それが一冊の小説だと気づき、不思議そうに質問する。
「これって……先生の新刊ですか?」
「ええ。誰よりも一番早く弥子さんに読んで貰いたくて。貰ってくれますか?」
また穏やかに微笑む龍一に対して、弥子はお盆を胸の前で持ったまま、興奮しながら答えていた。
「……勿論です! 私は先生の書く小説が、どの作家さんの小説より一番大好きなんです!」
そんな嬉しそうに目を輝かせる弥子をふふっと笑うと、龍一も嬉しそうに話す。
「私も愛してますよ、弥子さん」
「先生……?」
その優しい告白と同時に左手をそっと握られ、弥子はドキッとしつつも思わず龍一の顔に見惚れていた。