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素晴らしき世界

第15章 それはやっぱりあなたでした

規則正しい鼓動が耳に響く。

ゆっくりと目を開けると、
冷たいタオルで視野が覆われていた。

手を伸ばしてタオルを取ると、
泣いていたときに埋めていた胸の中に
俺はまだいた。

ギュッと抱きしめられたまま……

でもさっきと違うのは、
布団の中に入っていることと、
見上げる先の大野さんが眠っていること。

そっと頬に手を伸ばし、
指で睫についた涙を拭った。

その涙は冷たかった。

きっと、眠る前に流したんだろう……


あなたを涙で濡らすのは誰なんですか?


その涙を俺が止めることが出来ませんか?


大野さんの背中に手を回そうと動いた時、
何かが布団から落ちるのが見えた。


何だろう……


包まれている腕の中から
身を乗り出して覗いてみたら
一枚のメモらしきものが落ちていた。


大野さんが読んでいたのかな……


そのメモが気になって起こさないように
大野さんの胸の中から離れた。

そのメモは手紙だった。

俺はベッドの端に座って手紙を読んだ。

そこには、大野さんへの
想いがたくさん溢れていた。


胸が苦しい……


涙が止まらない……


俺の流した涙が手紙に落ちた時、
目の前に映像が映し出された。


『ただいま』


大野さんが笑顔で帰って来る。


『いただきまーす』


俺の目の前で美味しそうに
カキフライを頬張る大野さん。


『俺、二宮さんが好きだ』


真剣な眼差しの大野さん。


『二宮さんのすべてを俺にちょうだい』


大野さんの言葉……


『大野さんの愛の証を
俺の身体に刻み込んでください……』


俺の言葉……


大野さんとのキス……


大野さんとひとつになった瞬間……


そして、涙ながらに手紙を書く俺。


この手紙は……


俺が書いた手紙だ……


記憶は曖昧だが
はっきりと思い出したことがある。


俺は忘れていた記憶の中で
大野さんを愛していた。


大野さんも俺を愛してくれた。


ごめんなさい……


こんなに近くにいたのに
思い出すことが出来なくて……


大野さんを悲しませていたのは
俺なんですね?


大野さんの想っている人は俺ですか?


信じていいですか?


まだ、俺を愛していますか?


俺は大野さんを愛しています……


愛しい人の顔を見つめる。


「智……」


俺はここにいるよ……

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