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素晴らしき世界

第18章 What is the most stupid thing?

「生地になってきたね」

俺の肩越しにボールの中で
ひとつに纏まってきた生地を覗き込む。

頬に当たるサラサラの髪がくすぐったい。

「もうちょっと捏ねないと」

意識がまーくんに向きそうになるのを
必死に捏ねて耐えた。

「俺も捏ねたーい」

まーくんの手が俺の手と重なった。

俺とリズムを合わせて、生地を捏ねていく。


正確には、俺の手を捏ねている。


「小麦粉を練る~、練る~、練る~♪」

楽しそうに自作のパンの歌?を歌う。

「もう、生地になってるし。
それに練ってるのは俺の手」

「だってスベスベしてて
生地みたいに練り心地いんだもん」

その口調に、
まーくんの顔は容易に想像できる。

チラッと横目で見ると、
完全に頬は緩み切っていた。

まーくんは手を離すことなく
2人で生地を捏ね続けた。


何か、こんな感じで2人で
共同作業する洋画あったよな……


「俺の気持ちも練る~、練る~、練る~♪」

俺の手に温かい気持ちが伝わってくる。


『俺の気持ちも練る~、練る~、練る~』


心の中で歌ったリズムに合わせて
生地を練っていく。

まーくんの気持ちを俺の気持ちと共に
生地に練り込んでいく。

きっと美味しくなるスパイスになる。


「あっ、かずも歌ってくれた」

「へっ?」

「……歌って…たの?」

ゆっくり顔を動かして、まーくんを見た。

「うん」

満面の笑みで返事をするまーくんを見て、
一気に顔に熱が集まった。


「よし、もういいんじゃない?」

恥ずかしさで固まる俺を置き去りにして
重ねていた手を離すと、
ペチペチと生地の具合を確かめる。

そしてボールにラップをかける。

「よし、暫く発酵だねっ!」

そう言うと、俺の手をギュッと握る。

そしてグイグイ引っ張られ
ソファーへと連れていかれると、
肩をグッと押して無理矢理座らされた。

行動の意味がわからず、
立ったままのまーくんの顔を見上げた。

「次は……かずか補充する番」

俺の横に座ると、
大きく手を広げて笑った。


それだけで、俺の疲れは飛んでいくよ?


俺は倒れるように
まーくんの肩に顔を埋めた。


でもね……


あの日離れて空っぽになった分は
まだまだ満たされないから
いっぱい補充させてね?

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