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素晴らしき世界

第23章 未来の向こう側

「ぅ……ん」

ゆっくりと目を開けると、
大好きな人の香りをすぐに感じた。

俺の腰に回した腕が、互いの隙間を
一ミリも許さないくらい抱き寄せる。

首を上げると、閉じた瞼に
力強い目差しを潜めた可愛い寝顔の潤。

「……ホント長い」

ツンとカールした睫毛に触れた。

「ぅん……」

眉間に皺を寄せ、身動ぎしたが
すぐに規則正しい寝息が戻った。


昨日も帰りが遅かったから、
もう少し……寝ててね?


首を伸ばして頬に唇を軽く当てる。

その時に緩んだ腕からすり抜け、
キッチンへと向かう。

蛇口レバーを上げ、水をコップに注ぐ。

ゴクッと飲んで喉を潤すと、
いつもの場所へと向かった。

窓際にある小さなテーブルある植木鉢。

いつも2人で
朝を迎えたときにだけ水をやる。

その頃の植木鉢の土は、
いつも白く乾いている。

それくらいに水をやるのが、
コイツにはちょうどいいらしい。

水を与えると、
一気に土が吸い込んでいく。


俺と同じ。


久しぶりに会えると、
潤の愛をいっぱい吸収する。


でも、俺はコイツとは違う。


ちょうどよくなんてない。


毎日、潤の愛が欲しいよ……


「あっ、咲いてる……」

昨日は蕾だった植木鉢を
小さな花が散りばめられている。

水色の覆輪に中心部分は白。


この窓から見える景色と同じ……

まるで空がここに集約されているみたい。


「あっ、咲いたんだ……」

声と共に、後ろから潤に抱きしめられる。

「うん。ちゃんと咲いたのを見たの初めて」

いつも俺がここに来るときには、
咲いている状態だった。


コイツが教えてくれる春。


コイツと何回、春を迎えたんだろう……


これからもコイツと潤と、
一緒に春を迎えたいなって思う。

「綺麗だね」

「和の方が……綺麗だよ」

「ふふっ、なにそれ?」

照れて笑って見せたけど、
後ろを振り返る事が出来ない。


だって、いつもの冗談半分の口調じゃない。


抱きしめる腕により力が籠り、
何より真剣な声だったから……

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