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素晴らしき世界

第29章 夢か幻か

「相手がワ・タ・シで良かったですね」

『私』を強調する様に俺に言い放つ。


暫しの沈黙の後、俺から出てきた言葉は……

「返事じゃないじゃん!」

心からの叫びだった。

「はぁー?何でわかんないの!」

イライラしてるのか……
濡れた髪を乱暴に掻きむしる。

「これでわかれって言う方がおかしいでしょ!
返事って言うのは『はい』か『いいえ』でしょ!」

イライラしてるのは俺だっつーの!

何が悲しくて傷つく返事を、
自ら催促しなきゃいけないんだよ!

「もうっ、面倒くさいな!」

「うわっ!」

掴んでいないニノの手が俺の手を
グッと下に引っ張った。


……えっ?


必然的に前のめりになった時、
俺の目の前にはニノの顔が待ち受けていた。


そして、唇が重なった。


「わっ、わかりましたか!」

顔を真っ赤にしてるのに、
強気な口調は変わらない。

そこには夢で見た可愛いニノはいない。


でもそれって……

今が現実だってことだよね?


「わかんないって言ったら、
もう1回……してくれる?」


もう一度、確かめさせて?


「ちょっ、調子に……んっ」

掴んでいた手を後頭部に回して、
減らず口を自らの唇で塞いだ。

逃げようとする体を、
反対の腕で引き寄せロックする。


確かめたいって思ったけど、
一秒たりとも待つことができなかった。

やっと『恋愛対象』として
遠い存在だったニノが目の前にいる。


絶対に……逃がさない。


「んーっ!」

くぐもった悲鳴とガンガンと
強い力で胸を叩いてくるので
名残惜しいが唇を離した。

「ば……かっ、くっ、苦しいわ……」

肩に頭を預けて息を整えるニノ。

巷で噂のプレイボーイのニノが、
俺のキスであたふたしてる。


鼻呼吸、知ってるよね?


「ニノ……好き!」

俺はギューッと強く強く抱きしめた。

「痛いっ、力加減バカ男……離せ!」


天の邪鬼なニノは
恋人になっても変わらないけど……

一番現実味があっていいか。


「ニノ、チュー」

「調子に……乗るなー!」

パチンという音と同時に頭に衝撃と痛みが走る。


夢じゃ……なかった。


「ニノ、もう一回叩いてぇ!」

「はぁ?このド変態がぁぁぁ!」


【end】

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