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素晴らしき世界

第6章 不思議な同居人

彼との出会いは一週間前の金曜日。

先輩に誘われていつもの居酒屋へ。

何だか上機嫌な先輩にのせられて、
いつもよりお酒を飲みすぎた。

「大野、もう一軒行くぞー!」

店の前で酔っぱらって叫ぶ先輩。

「もう、勘弁してくださいよ」

「先輩、遅くなると奥さんに怒られますよ」

「女房なんて怖くないぞ!」

「大野さん、俺先輩と同じ方向なんで
タクシーで送って帰りますから」

「悪い、よろしく頼むな」

「こらっ、大野!待てー!」

後輩には悪いと思ったが、
面倒なので振り返らず駅へ向かった。

アパートに着いて
部屋を見上げると明かりが灯っていた。

急いでたから
電気つけっぱなしで出たんだ……

階段を登り、鍵を開けて中に入ると
見知らぬ男が玄関で仁王立ちしていた。

俺は思わずドアを閉めた。

酔っぱらって幻覚でも見てるんだな……

深呼吸して、もう一度ドアを開けると
やっぱり同じ光景が目の前に。

「おい、お前!
何で俺ん家に住んでるんだ!」

「はい?」

すごい剣幕で
怒っているのはわかったが
言っている意味が分からない。

「警察に突き出すぞ!」

警察に行ったら
捕まるのあなただし……

「取り合えず、表に出ろ!」

俺を追い出そうとするので

「えっ?ちょっ、待って!」

「何だよ!」

「ここ、俺ん家ですけど……」

「は?やっぱり泥棒は嘘つきだな!
勝手に鍵も作りやがって」

「不動産屋さんから受け取ってます!」

最初は冷静でいられたが
段々と腹が立ってきた。

「そんな訳ないだろ!
俺が住んでいるのに……」

「お前が出てけ!」

俺は男の腕を掴み
ドアを開けて外へ引っ張る。

「離せよ、出ていくのはお前だ」

外で言い合いをしていると

「静かにしてくれますか!」

隣の人が冷たい目で見てきた。

「「すみません」」

俺たちはとりあえず部屋の中に入る。

「とりあえず、
落ち着いて話しませんか?」

納得してない顔はしていたが
首を縦に振ってくれた。

一応、お客さんだからと思い
スリッパを取ろうとしたら
姿見が目に入った。

そこに写っているはずの男がいない。

「えっ?あっ?うん?」

鏡と男を交互に何回も見る。

「あんた、何言ってるの?」

俺は鏡を指差した。

「何で鏡なんて見……」

男は言葉を失った。

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