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素晴らしき世界

第6章 不思議な同居人

その場に立ち尽くす……誰だ?

もしかしてアパートの前の住人?

そう言えば、この部屋の家具は
なぜか備え付けだったんだよな……

俺としては有り難かったし、
駅から近くて、申し分ない物件だった。

『急に空きが出たんです』って
笑顔で不動産屋さんが言ってた。

曰く付きの物件じゃねーか!って、
怒っている場合じゃない。

「あの……えっと……
とりあえず座ります?」

俺の問いかけに何も答えず、
部屋に上がり椅子に腰かける。

さっきの威勢はどこへやら……

そりゃ、自分が死んでると知ったら
言葉もでないよな……

やっぱりこの世に未練とかあって
成仏できないのかな?

「あの……えっと、その……」

俺が戸惑っていると
男はクスクス笑い始めた。

「どっ……どうしました?」

「そりゃ戸惑いますよね……
目の前にいるヤツが幽霊だったら」

さっきまで笑ってたのに
今度は目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。

俺はスーツからハンカチを出して渡した。

「優しいんですね……幽霊の俺なんかに」


自分でも不思議だった。

目の前にいる人が幽霊なのに、
もうその事を受け入れて接している。

そして、力になりたいって思った。

「あの……
名前、教えてもらっていいですか?」

「えっと、俺の名前は……」

そのあとの言葉が続かない。

「もしかして……」

「わからない。名前が思い出せない……」


そう言えば、
不動産屋さんと下見に来たときに
表札にまだ名前があった。


「……二宮さん」

「えっ?」

「そう、きっと二宮さんだ!」


頭を抱え、考える二宮さん。

「どう?何か、思い出しました?」

二宮さんは首を横に振った。

「違うのかなぁ?」

二「でも……たぶん、そうだと思う」

「えっ?」

二「あなたが言うと
そうなのかもって思えて……」

ウルっとした目で見つめられ微笑んだ。

おいおい、俺は何ドキッとしてるんだ!

彼女しばらくいないからな……
って、それは関係ないし!

男だぞ、二宮さんは……

ひとり頭の中でツッコミを入れていたら
二宮さんは椅子から立ち上がった。

二「すみません、勝手にお邪魔して。
失礼します……」

一礼して玄関へと向かう。

俺は勢いよく立ち上がった。

椅子が倒れる音が響く中、
二宮さんの腕を掴んだ。

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