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素晴らしき世界

第30章 僕らの48日間

「和、お皿取ってー」

フライパンを揺すりながら、
猫背の背中に叫ぶ。

「今、いい所なの」

素っ気ない返事の後、
コントローラーの操作音だけが聞こえた。


想像してた同居生活は何処へやら……


ここにいるのはぐうたら生活満喫中の和。

そしてせっせと和に世話を焼く俺。


和のドラマが撮影が終わり
スケジュールに余裕は出来たものの
夏公開の映画の取材が始まった。


俺は高校野球100回の
スペシャルナビゲータ。

そして秋の主演ドラマの決定。

コンサート開催と重なるため、
早々に撮影が始まった。


俺……結構、忙しいよ?


それでもほっとけないのは、
一日中その場所からトイレ以外は
動いていないはず。

だから帰ってきて早々、夕食の準備。


「ちょっとは手伝ってよ!」

「何にもしないって言ったでしょ?」


確かに言いましたよ?

俺も『いいよ』って言いましたよ?


別に怒ってはない。

でもさ、たまには隣でさ……


「はい、お皿」

「えっ?」

ゲームをしていたはずの和が隣に立ってる。

「ほら、お肉焦げるから早く」

「あっ、はいはい」

出来上がった豚の生姜焼きを乗せる。

「千切りキャベツも乗せるね」

さっきまで手伝う素振りも無かった和が
せっせと盛り付けていく。


こんな時、つくづく思う。


和って空気が読めるって言うか……

俺の心境の変化に敏感だなって。


ちょっと今日は仕事が上手くいかなかった。

獣医だから当然、動物との撮影も多い。

トレーニングされているとはいえ、
機嫌などに左右されることも少なくない。

今日は特に互いの呼吸が合わなくて、
NGを多く出してしまった。


「お腹空いたから早く食べましょ」


何だよ……

急に態度変えちゃってさ。


なんて思っても俺って単純。


優しく微笑む和を見て、
カラカラになった心が潤っていく。

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