素晴らしき世界
第30章 僕らの48日間
「ただいまー」
「おかえりー」
玄関で俺が大きな声で叫ぶと、
リビングから素っ気ない返事が返ってくる。
「だだいま」
「おかえりなさーい」
玄関からやる気のない声が聞こえると、
俺は玄関へと走っていく。
俺が寝ているベッドへと
音をたてないように入ってくる。
和が寝ているベッドへと
音をたてないように入っていく。
俺を起こさない様にベッドから出ていく。
和を起こさない様にベッドから出る。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
リビングから聞こえた声を背に
俺は玄関を出る。
「行ってきます」
「いってらっしゃーい」
そばで見送ると俺の声を背に
玄関を出ていく。
俺たちは今日もそれぞれ
見つめる先に向かって歩いていく。
「ほら、早く準備して下さい。
もうすぐマネージャーが着ますよ」
「わかってるって」
玄関で待っている和の元へと走っていく。
「余裕をもって行動して下さい」
「はーい」
靴を履きながら、
いつもの和の小言を聞き流す。
プルルッ…プルルッ…
和のスマホの着信が、
マネージャーの到着を告げる。
「ほら、行きますよ」
「ちょっと、待ってよ」
鍵を閉めると先を歩く和を追いかけた。
きっと俺はずっと和を
こうやって追いかけ続ける。
「早くしてください」
きっと和はそんな俺を
止まって待ってくれる…よね?
「ちょっと待ってよー」
わざと走り出す和に追いつくと、
逃げないように手を握る。
「こら、離せ…っ」
「離しませーん」
俺はギュッと和の手を握った。
ずっと和が笑顔でいれるように……
ずっと俺が笑顔でいれるように……
一緒に歩いていこうね?
僕らの未来はこれからもずっと続いていく。
「和、だーいすき」
「調子に……乗るなっ!」
「いてぇぇぇぇぇ」
「バカ、うるさい!」
……のかな?
【end】