素晴らしき世界
第31章 向かい合わせ
玄関の鍵を開けて家に入る。
真っ暗な廊下を歩くのも慣れたもの。
パチッと照明をつければ、
いつもの殺風景なリビング。
生活感は……まるでない。
ネクタイを緩めながらキッチンに向かうと
食器乾燥機に置いてあるグラスを手に取る。
朝、俺が置いた場所から一ミリも動いていない。
昨日も……
一昨日も……
ずっと同じ場所にコップはある。
そしてコップ以外に食器が増えることもない。
いつからだろう……
こんなに静かな家になったのは。
それすらも思い出せない。
今リビングに響くのは、コップから溢れる水が
シンクに流れ落ちていく音だけ。
俺の声すら響かない。
『翔、お帰りー』
ふと、浮かんだアイツの笑顔。
何を今さら……
並々に水が注がれたコップを
口に運んでグイッと飲み干した。
さっと濯ぐと元の場所にコップを戻す。
そしてソファに向かうと、
これもいつも通り着替え一式と
タオルが綺麗に畳まれて置いてある。
これだけが唯一、俺達を繋ぐもの。
でもこの優しさがあるのならって
ずっと俺はどこかで期待していた。
元に戻れるんじゃないかって……
でもそれは「これ……」という短い言葉と
差し出されたモノによって無惨に打ち砕かれた。
って、そもそも打ち砕いたのは……俺か。
重要な書類や手紙を保管する引き出しをあける。
そこには半分に折られた薄っぺらい白い紙。
いつかに見た用紙と似てる。
それは俺達の始まりを誓うものだった。
でもこれは……
俺達の終わりを告げるもの。
俺はまだ、渡された時にあった
空白部分を今も埋めれないでいる。
真っ暗な廊下を歩くのも慣れたもの。
パチッと照明をつければ、
いつもの殺風景なリビング。
生活感は……まるでない。
ネクタイを緩めながらキッチンに向かうと
食器乾燥機に置いてあるグラスを手に取る。
朝、俺が置いた場所から一ミリも動いていない。
昨日も……
一昨日も……
ずっと同じ場所にコップはある。
そしてコップ以外に食器が増えることもない。
いつからだろう……
こんなに静かな家になったのは。
それすらも思い出せない。
今リビングに響くのは、コップから溢れる水が
シンクに流れ落ちていく音だけ。
俺の声すら響かない。
『翔、お帰りー』
ふと、浮かんだアイツの笑顔。
何を今さら……
並々に水が注がれたコップを
口に運んでグイッと飲み干した。
さっと濯ぐと元の場所にコップを戻す。
そしてソファに向かうと、
これもいつも通り着替え一式と
タオルが綺麗に畳まれて置いてある。
これだけが唯一、俺達を繋ぐもの。
でもこの優しさがあるのならって
ずっと俺はどこかで期待していた。
元に戻れるんじゃないかって……
でもそれは「これ……」という短い言葉と
差し出されたモノによって無惨に打ち砕かれた。
って、そもそも打ち砕いたのは……俺か。
重要な書類や手紙を保管する引き出しをあける。
そこには半分に折られた薄っぺらい白い紙。
いつかに見た用紙と似てる。
それは俺達の始まりを誓うものだった。
でもこれは……
俺達の終わりを告げるもの。
俺はまだ、渡された時にあった
空白部分を今も埋めれないでいる。