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素晴らしき世界

第36章 怪我の功名

カチャ…


玄関で鍵の開く音が聞こえた。

「ただいま……って、どうしたのこれ」

キッチンの大惨事に、
目をパチパチさせて驚くニノ。

「ごめん……」


昨日のことも……

この散々たる状況も……


「ご飯まだでしょ?」

「う…うん」

昨日もこともあっての今日のこの大惨事。

けどニノは怒る事なく、
気合いを入れるように腕捲りをした。

「こっちはやっとくから、
翔さんはお風呂の掃除してくれる?」

ニノはちゃんと俺の事をわかってる。

自分一人が作業すると
俺が申し訳なく思うから
必ず何かしらの作業を与える。

「わかった」

俺は浴室に向うと、ゆっくりと掃除をした。



「終わったよ」

「ん、ありがとう。
こっちももうすぐだから待ってね」

ニノは振り返る事なく、
真剣に料理に向き合っている。

椅子に座ると、手際よく
料理をするニノの後ろ姿をじっと見つめる。


久しぶりの手料理は何だろう……


スーッと鼻から息を吸うと、
美味しい香りが舞い込んで来た。


もしかして……


「出来たっ!翔さん、
スプーンとコップを出してくれる?」

「了解」

食器棚からスプーンとコップを取り
テーブルに並べていった。

「はい、どーぞ」

俺の座る前に置かれたのは
シンプルなオムライス。


確か映画でも……

って、嫌なこと思い出したよ。


「じゃあ……食べよっか?」

でもニノは気づくことなく
俺にニッコリと微笑む。

「「いただきます」」

俺は複雑は気持ちでパクッと口に運んだ。

「……めちゃくちゃ美味い!」

複雑な気分にさせたオムライスが
一瞬で気持ちを書き換える。

「ホント?良かった!
映画で作ならきゃいけなくてさ」


『映画』

今、一番聞きたくないワード。


『でも翔さんに食べてもらおうと思って
頑張って良かった』


そっか……

離れてたってニノは
ちゃんと俺の事を考えてくれていた。


俺もちゃんとニノの事を考えなきゃな。


俺はスプーンを置き、
立ち上がってニノのそばに移動した。

「どうし……うわっ!」

腕を取ると、引き寄せて抱きしめる。

「抱きたい……優しく」

「いい…よ」

俺の腰にギュッと手を回した。


今日はたくさん、愛してあげるね?


【end】

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