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素晴らしき世界

第7章 優しいサンタクロース

閉店ギリギリにお店に着いた。

店内に入ると店員さんが俺に声を掛ける。

「予約の受け取りですか?」

「はい」

「お名前、お聞きしていいですか?」

「二葉です」

何かを予約する際は
『二葉(ふたば)』という名前を使う。

俺たちの仕事は
定時に終わることがないから、
予約したものをどっちが取りに行けるか
当日にならないとわからない。

なので、困らないように
それぞれの名前を一文字ずつ取って
名乗るようにした。

「ご用意致しますので、少々お待ちください」

暫くするとスタッフが
紙袋を持って俺の前に来た。

「お待たせしました」

「あの、お会計は?」

「予約時に頂いておりますので」

「わかりました、ありがとうございます」

一礼して店を出ようとしたとき、
親子連れが入ってきた。

「すみません、
クリスマスケーキありますか?」

「申し訳ございません……
本日は、予約分のみなので」

「いえ……わかりました」

お母さんが店を出ようとしたら、
子どもがその場に座り込んだ。

「いやっ!かえらない」

「ワガママ言わないで……ほら、立って!」

「いやだ、いやだ、いやだ!」

とうとう泣き出してしまった。

入り口で座り込んでいるから
帰るに帰れない。

女の子は俺が持っている紙袋を
悲しそうに見つめる。

声を掛けずにはいられなかった。

子どもの前にしゃがみ込み

「どうしたの?」

「パっ…パパがね…っ、
かえってきてくれたのっ!
だから、おっきなケーキあげたいのっ」

お母さんが教えてくれた。

単身赴任でなかなか会えないお父さんが
急遽今日、帰ってくると聞いて
娘さんがケーキをプレゼントしたくて
あちこち探し回っていると……


和がせっかく予約してくれたケーキ。


でも、目の前には泣いている女の子。


ごめん、和……

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