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オムツン

第28章 二十八枚目

扉を開けて入ってきたのは、ストールを巻いた見知らぬ女性だった。

店に不慣れな様子の女性にカズ君が声を掛けた。

「今晩は。ひょっとして、マリさんですか?」

声を掛けられた女性の顔が明るくなった。

「ボクが担当のカズです。こちらはケントさん。よろしくお願いします」

カズ君が席を移動し、私とカズ君の席を女性に勧めながら自己紹介した。

女性は

「初めまして。マリと申します。よろしくお願いいたします。」

と言ってペコリと頭を下げた。

つまり、このマリという女性が、面接を受ける女性であって、面接を受ける女性は、私の妻ではなかったのだ。

私は自分がホッとしていることに気付いた。

妻でなくてよかった、と思っていた。

少し変な汗をかいていた。

心拍数も上がっていたようだ。

それほど

新規の女性が妻であるかどうか

が、私には重大なことだったようだ。

私が思っている以上に、心にはプレッシャーがかかっていたのだろう。

私はグラスに半分ほど残った水割りを一息に飲口に含む。

……私にとって、『妻』とは何だ?

……

答えの出ないまま、その問いは、口に含んだ水割りと一緒にゴクリと飲み干した。

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