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キョウダイ

第16章 流されてゆく思い










あたしは幸せな夢を見ていた。






暖かくて、フワフワして、何だか安心する。






ここはどこ?






誰かが傍にいる気配がある。






フワフワして気持ちいい。





それなのに。





また、いつもの夢。






崖の上から真っ逆さまに、落ちていく車。






ガードレールにぶつかった衝撃で、あたしの体が宙に浮く。





ふわりとした浮遊感。





スローモーションみたいに、一瞬空を飛ぶ。





青い空、眼下に広がる谷。





確かに目にした美しい風景。





幼いあたしは悟った。






ああ、もうダメだ。







それなのに。






乗っていた車が谷底に、吸い込まれるように、落ちていく。






あたしの体が違う方向に跳ばされて……。






どうして……?






「いやっ……!、奏ちゃんっ!」











「……葵ちゃんっ?」






ぎゅっと、後ろから抱きしめられる。






ああ、夢だ。






また、いつもの夢だ。






抱きしめられる体温に安心して、ほっと息を吐く。










「また、夢……?海斗?」






「……!」






背後で、息を飲む気配がした。






どうしてそう思ったのか分からない。






抱きしめられる手に力が込められ、苦しさでその腕に触れて、びくっとする。






この腕は……。






柊ちゃんの腕だ。






あたし、今何て言った?






「葵ちゃん?今、誰の名前を呼んだの?」






ぎしり、柊ちゃんが動く気配。






あたしの体の真上から、じっと見つめられる。






大きめな薄茶の瞳が、悲しげに揺れていた。






何て言ったらいい?






何も言えない……。






「お願いだから……、俺だけを見て?」






切なそうな眼差しにドキドキする。






顎に手をかけて、唇をなぞられる。






「俺の名前を呼んで?」






「柊ちゃん……」






優しい手つき、愛しそうに唇をなぞられ、ぞくりと震える。






「柊斗でしょ?……ああ、名前が似てるから、紛らわしいよね?」

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