
Sinful thread
第3章 愛欲
当たり前だけど、いつもと変わらない、何の変哲もないドアを見て、何故か少し安心する。
もしかしたら葵は怒ってるのかもしれないけど、外からは中の様子は何もわからない。
そのドアを合鍵で開け、静かに玄関に入った。
……リビングの明かりが、真っ暗な廊下に漏れている。
葵、リビングにいるんだ……。
心臓がドキドキして、息苦しささえ感じる。
勇気を出して、リビングのドアをゆっくりと開いた。
「……た、ただいま……」
恐る恐るリビングに足を踏み入れながら、小声でそう言ってみる。
そんなあたしの目に入って来たのは、ソファに横たわっている、葵の姿だった。
……ね、寝てるの?
安心したような、拍子抜けしたような、がっかりしたような……。
そっと近づくと、葵の綺麗な寝顔が見える。
無防備に眠るその手には、葵のスマホが握られていた。
