テキストサイズ

Sinful thread

第5章 爪跡



……葵、どうして?

葵が忘れろって言ったんじゃん……。
こんなことされたらあたし、余計忘れられなくなる。


その赤い跡の上に指を這わせる。
嫌でも昨日の記憶を蘇らせる忌々しい跡。

なのに、消えて欲しくないと思ってしまう。
あたしは……葵のことを諦めることができないと思い知らされる。


葵は、どんな気持ちでこれをつけたの?
朝、隣で寝てるあたしを見てどう思ったの?

聞きたいのに、聞けない。
葵の前で、二度とこの話をすることはできない。


胸元をなぞる指に一つ、冷たい水滴が落ちた。


……もう、まただ。

今から大学行かなきゃ行けないのに。
なんであたしはこんなに泣き虫なんだろう……。


昨日はあんなに近くにいた葵が遠く感じて、涙腺はいとも簡単に緩んでしまう。



ストーリーメニュー

TOPTOPへ