
Sinful thread
第5章 爪跡
ピンポーン───
呼び鈴を鳴らし、玄関のドアを開けると、中からバタバタと慌ただしく足音がする。
少しして、心配そうな表情を浮かべながら、その足音の主が姿を現した。
「もう、急にどうしたの?希美」
「……うん、ごめんね。お母さん」
葵と暮らし始めてから一度も会っていなかったお母さん。
迷って、思い当たったのがお母さんだった。
「まあ、とりあえず上がりなさい」
「……うん」
今お母さんは裕翔さんの家で、二人で一緒に暮らしている。
まだ裕翔さんは帰って来てないみたいだけど……。
「それで、どうしたの。なにがあったの?」
リビングに通されて、お母さんの尋問が始まる。
「……葵と、喧嘩したの」
「喧嘩?年頃の男女だから仕方ないけど、早く仲直りしなさい」
その言葉になにも言えなくなってしまう。
……だって、喧嘩したわけじゃないし。
申し訳ない気持ちがふつふつと湧いてくる。
「……はぁ。とりあえず今日は泊まっていきなさい。葵くんには言っといてあげるから」
