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Sinful thread

第5章 爪跡




───案の定、1ミリも集中できないまま授業は終わってしまった。


昨日あたしを抱いた葵が、あの口で、あの手で、職場で彼女と話してるかも、彼女に触れてるかも……。

そんなことを考えるだけで苛立ちと焦りと悲しみと、いろんな感情混ざって他の物事を取り入れる余裕がなかった。

……あんな一瞬の時間でも、物理的な距離が近くなれば心も近付いたのではないかと勘違いしてしまう。



「……はぁ」


どうしよう。
帰りたくないなぁ。

一昨日奏多の家に泊まったばかりなのに……。


一夜だけと決めた上での行為だったはずなのに、あたしがこんな風になってちゃどうしようもない。
ちゃんと切り替えなきゃいけない。


葵の家に帰ったって、葵はきっといつも通りに接してくれる。
それはわかってるのに。


……それでも、足取りはどうしようもなく重い。


大学からの帰り道でしばらく悩み、あたしはバッグからスマホを取り出した。


そして、見慣れた番号へ電話をかける。


「……もしもし。急にごめんね。今日、泊まってもいい?」


……やっぱり今日は、葵の家には帰れない。

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