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イケメン戦国【上杉謙信】ツキノヒカリ
第1章 ツキノヒカリ
「今宵は満月か……」
薄黒い雲が流れる空を見上げながら、酒を口に含む。
彼女が亡くなってから、幾つの季節が流れたであろう。
身分違いだと、皆に反対され、出家し命を絶った最愛の人ーーー。
今もなお、彼女の面影が愛おしい。
あの笑顔、あの温もりに想いを馳せながら、また杯を口へと運ぶ。
もしも俺が、彼女を愛さなければ、彼女は今も、この殺伐とした世の中で、穏やかな光を放っていたのだろうか?
もしも彼女が、俺を愛さなければ、彼女は女としての、幸せを手にしていたのだろうか?
そんなことを考えながら、ふっと自嘲の笑みがこぼれる。
「そのようなことはあるまい……」
出逢ってしまった以上、俺は彼女を愛さないはずはなかった。そしてまた、彼女も俺を愛したであろう。
庭の枯れ木から、ひとひらの葉が落ちる。
愛が故に命を絶つなどーーー。
俺がそれを、望むとでも思ったのかーーー。
庭へ降り、落ちた枯れ葉を踏み潰す。
クシャリと音を立て、それは粉々に砕けた。
「俺が望んでいたのはーーー。」
死ではなく、生だった。
離れ離れになろうとも、生きて欲しかった。
ただそれだけで、俺は『軍神』ではなく、『人間』として生きることができた。
縁側に戻りながら、夜に呟く。
「仕方なかろう……」
縁側に射す月明かりは、まるで彼女のように、俺を包み込む。
そして今宵もまた、1人夜空を仰ぎながら、自分に酌をする。
拭いきれぬ想いを胸にーーー。
▶ 完 ◀
薄黒い雲が流れる空を見上げながら、酒を口に含む。
彼女が亡くなってから、幾つの季節が流れたであろう。
身分違いだと、皆に反対され、出家し命を絶った最愛の人ーーー。
今もなお、彼女の面影が愛おしい。
あの笑顔、あの温もりに想いを馳せながら、また杯を口へと運ぶ。
もしも俺が、彼女を愛さなければ、彼女は今も、この殺伐とした世の中で、穏やかな光を放っていたのだろうか?
もしも彼女が、俺を愛さなければ、彼女は女としての、幸せを手にしていたのだろうか?
そんなことを考えながら、ふっと自嘲の笑みがこぼれる。
「そのようなことはあるまい……」
出逢ってしまった以上、俺は彼女を愛さないはずはなかった。そしてまた、彼女も俺を愛したであろう。
庭の枯れ木から、ひとひらの葉が落ちる。
愛が故に命を絶つなどーーー。
俺がそれを、望むとでも思ったのかーーー。
庭へ降り、落ちた枯れ葉を踏み潰す。
クシャリと音を立て、それは粉々に砕けた。
「俺が望んでいたのはーーー。」
死ではなく、生だった。
離れ離れになろうとも、生きて欲しかった。
ただそれだけで、俺は『軍神』ではなく、『人間』として生きることができた。
縁側に戻りながら、夜に呟く。
「仕方なかろう……」
縁側に射す月明かりは、まるで彼女のように、俺を包み込む。
そして今宵もまた、1人夜空を仰ぎながら、自分に酌をする。
拭いきれぬ想いを胸にーーー。
▶ 完 ◀
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