旅は続くよ
第16章 八方塞
M「これって、もしかして…」
A「うん。『バンビーノ』のティラミスだよ」
M「ぅわ…、懐かしー…」
『バンビーノ』は前に住んでた町にある小さなイタリアンの店で
何かお祝い事があると可南子ママが奮発して連れてってくれた、思い出の店だ
そこで生まれて初めてティラミスを食べて
『こんな美味いケーキがあるんだ!』って感動して
それ以来、必ず頼んでたっけ…
M「え?でも…、これってテイクアウト出来ないんじゃ…?」
確かテイクアウトなんて出来なかったはず
A「…あー…、うん…、。いや何か、今日はたまたま出来て…」
M「嘘つけ」
目が泳いでんだよ、正直者
何も考えてなかったんだろ?
俺にティラミス食わせる事の他には、何も
A「…店員さんがホラ、その…いい人でさ」
まー兄が笑って誤魔化しながら、ティラミスを大事そうに皿に盛る
その姿が、俺の潤みそうな目にボンヤリと滲んだ
ふと、頭に
まー兄が店先で深々と頭を下げる姿が浮かんだ
たかがケーキ1個持ち帰るために
俺を元気づけるために
困ってる店員の前で頑固に
店員が首を縦に振るまで…
…なんで?
なんでそんなに優しいの?
こんな俺のために…なんで…?
分かってる
まー兄は俺とは違う
こんな邪な想いを抱えてる俺とは違う
単純に、優しいだけ
それでも…
ズルイよ
俺は、またアンタを好きになっちゃうんだよ
もうこんなに好きなのに
好きで、好きで好きで好きで堪らないのに
こんな気持ちは苦しくて、ツライだけなのに
まだ…好きになれてしまう…
諦めようとしてる、はず、なのに…
A「はいっ、召し上がれ!」
白い皿に盛られたティラミス
温かい紅茶
ワクワクした優しい笑顔
M「…いただきます」
口に広がるマスカルポーネの甘さ
コーヒーリキュールのホロ苦さ
俺の様子を覗き込む笑顔
M「……美味い………」
堪え切れず、涙が頬を伝った
甘くて苦い想いが溢れて止まらないように
A「潤?どうした?」
どうもしない
ただ、切ないだけ
叶わなくて
もどかしくて
張り裂けそうなだけ
まー兄がまるで幼子をあやすように
俺をそっと抱きしめてくれた
俺はただ、甘苦い胸の痛みを
ケーキと一緒に飲み込むのが精一杯だった
A「うん。『バンビーノ』のティラミスだよ」
M「ぅわ…、懐かしー…」
『バンビーノ』は前に住んでた町にある小さなイタリアンの店で
何かお祝い事があると可南子ママが奮発して連れてってくれた、思い出の店だ
そこで生まれて初めてティラミスを食べて
『こんな美味いケーキがあるんだ!』って感動して
それ以来、必ず頼んでたっけ…
M「え?でも…、これってテイクアウト出来ないんじゃ…?」
確かテイクアウトなんて出来なかったはず
A「…あー…、うん…、。いや何か、今日はたまたま出来て…」
M「嘘つけ」
目が泳いでんだよ、正直者
何も考えてなかったんだろ?
俺にティラミス食わせる事の他には、何も
A「…店員さんがホラ、その…いい人でさ」
まー兄が笑って誤魔化しながら、ティラミスを大事そうに皿に盛る
その姿が、俺の潤みそうな目にボンヤリと滲んだ
ふと、頭に
まー兄が店先で深々と頭を下げる姿が浮かんだ
たかがケーキ1個持ち帰るために
俺を元気づけるために
困ってる店員の前で頑固に
店員が首を縦に振るまで…
…なんで?
なんでそんなに優しいの?
こんな俺のために…なんで…?
分かってる
まー兄は俺とは違う
こんな邪な想いを抱えてる俺とは違う
単純に、優しいだけ
それでも…
ズルイよ
俺は、またアンタを好きになっちゃうんだよ
もうこんなに好きなのに
好きで、好きで好きで好きで堪らないのに
こんな気持ちは苦しくて、ツライだけなのに
まだ…好きになれてしまう…
諦めようとしてる、はず、なのに…
A「はいっ、召し上がれ!」
白い皿に盛られたティラミス
温かい紅茶
ワクワクした優しい笑顔
M「…いただきます」
口に広がるマスカルポーネの甘さ
コーヒーリキュールのホロ苦さ
俺の様子を覗き込む笑顔
M「……美味い………」
堪え切れず、涙が頬を伝った
甘くて苦い想いが溢れて止まらないように
A「潤?どうした?」
どうもしない
ただ、切ないだけ
叶わなくて
もどかしくて
張り裂けそうなだけ
まー兄がまるで幼子をあやすように
俺をそっと抱きしめてくれた
俺はただ、甘苦い胸の痛みを
ケーキと一緒に飲み込むのが精一杯だった