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旅は続くよ

第1章 ひとつ屋根の下

Sside



“人生、山あり谷あり”

“良い事があれば悪い事もある”

誰だ、そんな事言ったヤツ


確かに長い人生をトータルで見たら
“山”も“谷”もあるだろうけど

こうも悪い事が続けば
いい加減“谷”ばっかりに思えてくる


重苦しい気持ちでクローゼットの奥から取り出した黒いジャケットに袖を通す

喪服を着るのはこれで今年3回目

クリーニングした後、もう暫く着ることはないだろうと

クローゼットの1番奥の方に仕舞ったというのに



「翔ちゃん、雨降ってんぞ」

先に仕度を終えて窓の外を眺めていた智くんが静かに言った

つられて俺も外を見れば、
目を凝らしてようやくわかる程の細い雨

デジャブのような感覚に眩暈がしそうだった


O「黒い傘、あったけ?」

S「ビニールのでいいよ。
傘いるのは出棺の時だけだから」

O「…あん時もこんな雨だったな」

S「うん…」


やっぱり同じこと思い出してた

そりゃそうか

半年経った今も
未だ見えない生傷を抱えたままなのは、
智くんも同じ筈なんだ



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