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不透明な男

第12章 惑乱


「領くん、貴方はあの社長の特別じゃないの?」

智「え…?」


俺の頬に手を這わせ、顔を覗き込みながら聞いてくる。


「貴方によく似た子が居たの。あの子が成長してたら、きっとこんな顔になってるでしょうね」


18歳の俺を知っているのか。


「あの時の社長は、その子に凄く入れ込んでいたから。きっと貴方の事もそうなんじゃないかと思って」

智「僕は只のボディーガードですよ。でも、その、僕に似た子っていうのは…?」

「只のボディーガード?社長と仲良く世間話をするボディーガードなんて見た事無いけど?」


何やら妖しい目付きでふふっと笑う。


智「それより、その子があの車と何か関係が…?」

「…もう、入れ込み様が凄くてね。誰にも指一本触れさせないって、そんな感じで」


俺の頬を掴み、キスを散りばめながら女は話す。


「あんなの初めて見たから、凄いわねってからかったの。そしたら、養子にするんだって言うから」

智「養子…?では、その子には両親は居なかったんですか?」

「それが居たのよ。それも頑固そうな両親がね」


ふふっと笑いながら、思出話をするように語った。


「何度足を運んでも断られて、もう諦めたら?って言ったんだけど聞かなくて。しまいには大金を持って行ってね」

智「お金を?」

「ええ、それでその子を買おうとしたのよ。…汚いでしょ?」

智「……」


Aの言った事は当たっていた。
やはり金で俺の両親を釣ろうとしたのか。


「だけど頑固な両親だからね。余計に怒っちゃって」

智「じゃあ、養子には出来なかったんですか」

「それが、あの社長も怒っちゃって。ほら、プライドの高い人だから。大金持って頭を下げたのに断られたのがしゃくに触ったんでしょうね」


そうだろうな。


智「え、じゃあ結局どうなったんですか」

「これが最後の交渉だとか言って、額に青筋立てて待ってたのよ。あの両親が来るのを」

智「来る?」

「ええ、迎えに行かせてたわよ。当時ボディーガードをしてた中で一番怖そうなヤツを使ってね」


誰だろう。当時って事は、今はもういないのか。


「その時に使ったのが、あの蝶のエンブレムが付いた車よ」



そうだ。

お前は嘘は付いてなさそうだ。

俺だってその場面を目にしたのだから。





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