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レモンスカッシュ

第4章 M/A




A side


振り上がった手が、俺の嫌な記憶をフラッシュバックさせた。


また、だ。

またこの人も、俺を殴るんだ。


じわっと目尻に滲む、冷たいもの。


ぎゅっと目を瞑って、来るであろう衝撃に備えてみたけど、一向にそれは来ない。


痛みとか、そんなのじゃなくて、代わりに頭をぽんっと撫でられた。


撫でられてる。

何年ぶりだろう。
ほかの人の温かさに触れるのは。


攻撃されていない。暴力じゃない。

頭では理解出来るけど、体が覚えている嫌な記憶。



「相葉…?」
「せんせ、い…。」



苦しい。

助けて。タスケテ…。


ずっとあの記憶に縛られてる自分が嫌だ。


だけどその記憶は、どう足掻いたって、もがいたって、抜け出すことが出来ない、深い闇になってしまっている。



「今日は、補習はいいから。」
「え、でも…。」
「家に帰って寝ろ。顔色悪いから。

あと、明日からは今日よりも1時間遅い時間から補習を始めるから。」
「え、何で…って、いないし…。」



それだけ言い残して、先生は出ていってしまった。


白衣をふわっと靡かせて、風のように去っていった。



だけど、その方がよかった。

これ以上一緒にいられたら、嫌な記憶に支配されて、先生だって嫌な記憶になるところだった。



「もう大丈夫だと思ってたのに…。」


想像以上に、あの記憶に囚われてる自分に気が付いた。

苦しかった。

そんな自分が滑稽だった。情けなかった。

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