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レモンスカッシュ

第4章 M/A

A side


朝起きた時から、何となく、悪い予感がしてた。


頭はくらくらするし、体がとにかくだるい。


「熱、じゃあなさそうだしな…。」


喉が痛い、とか、関節痛もないから、そっちではなさそう。


「…行かなきゃな。補習。」


もう家を出ないといけない時間。

分かってはいるんだけど、いつもより遥かに重い脚がそう簡単に動く訳もない。



何とか踏ん張って家を出たのはいいけれど、


「絶対に遅刻だ…。」


もう学校に着いとかないといけない時間になってる。


急ぎたい気持ちは山々だけど、ペダルをこぐ足にうまく力が乗らない。



立ちこぎをして自転車を加速させようと、サドルから立ち上がった瞬間、


「あ…。」



目の前が真っ白になる。



見える景色が回っていると思っていたら、地面に体を叩きつけられていた。


痛みもあったけれど、それよりも頭がぐるぐると回る気持ち悪さに嫌悪感。





あー、もうダメだなぁ。無茶したかなぁ。



目を閉じる前に、


「大丈夫!?聞こえてる!?



その声に返せていたかは分からない。


その前に意識はフェードアウトしていた。



こんな時に考えるのは、死でもなくて、バイトでもなくて、


松本先生のこと…。


好き、なんだよな。





サイレンの音が聞こえる。



病院は嫌いだ。

いい思い出なんてない。


ああ。

俺の記憶に、いい思い出なんてないのか。






手が温かさに包まれる感覚。


「…いば、相葉。」


優しい、聞き覚えのある声。


目を開けて答えたいのに、
大丈夫だって言わなきゃいけないのに、体は言う事を聞いてはくれなくて。



「…好きだ。」


そんな声が聞こえた。

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