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レモンスカッシュ

第4章 M/A

now: 30th, August


Mside

家に手をつなぎながら帰って。

ソファに横向きに並んで座って、…あの時と、同じように。



あったかいココア入れて。




「先生に、ずっと話さなきゃって思ってた。」


彼が、ずっと心の中にしまっていた箱を、



開けようとしてる。




「俺ね、」





















雅紀の話は、想像を超えるものだった。


一気に、それでも何の感情を込めるわけでもなく、
ただ淡々と話し終えた雅紀.




「先生、…軽蔑するかなって」

「え?」

「こんな話聞いたら、軽蔑するかなって思って、言えなかったんだ、ずっと」

「…そんなこと、ない。」


雅紀は、親からずっと暴力を受けていた。

でも本人は、それは虐待だと思っていなくて、


自分が悪かったんだって、ずっと言い聞かせていて。


だから、だったんだよな。

こいつが高校の時、

田舎の家を出てきてあんなボロアパートで独り暮らししてたのも、

身体を酷使してバイトをして金貯めて、倒れたのも。


俺の家に来たあの日、いきなり上半身裸になった雅紀の身体が、


…もう消えない、アザがいくつもあったのも。


全て、それが理由だったんだ。


「おふくろも親父も、俺のことなんて、」

「違う。それは違う。」


今まで黙って聞いていた俺が、いきなり声を発したのを見て、
静かに驚く雅紀。

「…え?」


「いや、俺も、そういう立場になったことはないからわからないけど。

 多分ね、親御さんたちは、雅紀のこと、愛していたんだよ。 

 愛していたけど、…愛の表現方法が、分からなかった。

 だから、そんな悔しさや苦しみを、雅紀の失敗にかこつけて、叱るふりをして、

 雅紀にぶつけていたんじゃないかな…

 決して、愛されてなかったわけじゃないんだよ…」



「…先生…」

「お前は、愛されているんだ。親御さんたちのことは、決して許されることじゃない。でも、でもっ」


だめだ、俺が泣いたら、


泣いたらっ…


「雅紀っ…」

「せんせ…」

お互いに泣き出して、抱き寄せあって。


ぬくもりを、感じた。


「せんせっ、俺、初めて出会いました…」

「…え?…」

「俺のために、涙を流してくれるひと…」


まさき…



まさき…

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