イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第8章 織りなす言葉
クリスが優しい人であるということを、テリザは彼と一緒に過ごす内に知るようになってきた。
口も悪く、不愛想だし、無骨な印象を受けるが、意地悪な言葉の端々からは彼の不器用な優しさを感じ取れた。大丈夫か、とも、辛いのか、とも言われなくても、彼はそこにいるだけでも、そっと見守ってくれていると、テリザには分かっていた。
ブルーベルに復帰する前の日には、テリザが街に出かけて買い物をして、夕食を作った。置手紙だけ残して勝手に出るな、まだ動くなときつい言葉で言いながらも、彼はテリザの作ったビーフシチューを残さずに食べた。心配されているのだろうか、と気づくと、テリザは彼の表現の仕方の不器用さに、思わず笑みが零れた。やっぱり優しい人だと、そう思った。
色気など何もない、穏やかな関係。教会を出るのを少し名残惜しいと思ってしまう程度には、テリザは驚くほどあっさりと教会の生活に馴染んでいた。それはおそらく彼が距離を保っていてくれているからであり、ラッドやハルのような分かりやすい愛情ではなく、素っ気ない態度を取ってくれているから、家主である医者とその患者という心地よい場所に慣れることができていたのだろうと、テリザは頭のどこかで考えていた。