イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第10章 悲しみの先に
ずたずたに千切れた心は、自分を守るために、兄に恋をしたのだと錯覚した時期もあった。もしそうだったのなら、あれは禁断の恋であっても、愛の末の行為になるから。だがそれは違った。ただボロボロになった心が、無理矢理救済を探していただけだった。
ずっと、誰かに話したかったのかもしれない。決して誰にも話してはならないと、両親から諭されていた。自分が悪いのだから、そうするしかないのだと思っていた。それでも鉛を飲んだように重たく冷たく死んでいく心は、確かに助けを求めて叫んでいた。
「うっ、っ……、ぅ……」
体を震わせて涙を流し続けるテリザの頭に、クリスはそっと手を触れた。
「今まで、よく頑張ってきたな」
「っ……」
今までクリスから聞いたことのなかった優しい声音に、テリザはついに声を上げて泣き出した。
「ぅ、あ……ああああ……」
身を引き裂くようなテリザの声に、クリスは無言で彼女を抱きしめた。
今はもう、何も考えたくなかった。クリスの胸に縋りつき、テリザは声が枯れるまで泣いた。