
昔と今は。
第3章 始まり(2)
「ゲホッ、ゲホッ…カハッ……」
何度目だろう、この痛みは。
全身を隈なく這っていく痛みは神経だけでなく感覚までもを麻痺させていく。
当然といえば当然のことだが、もうあの人以来の来客はなかった。いや、あの人がここに来れたことが可笑しかったのだ。
通常の人間ではこの館に入ることはできない。結界が張ってあるから。
ここに入れるのは、私を作った者、本人、そしてそれに関与している者のみ。
「死んだか?」
そう私の産みの親…父が言う。
「まだ…気も失ってませんよ…?」
喋れるだけの気力があったことに驚いた。
実際は物凄く辛かったが、弱みを見せるとすぐにまた追撃をかけられる。
こんな時でも同じだが、どうせなら少しだけ、有利な状況を作っておきたかった。
父は口角を釣り上げると、すぐに戸棚に入っていた薬品に手を伸ばした。
しかし、それを阻止するように、電話が鳴った。
一度舌打ちをしてから電話に出ると、異国の言葉での会話。
もちろん私には何を言っているかなんてわからなかったけど、それが仕事のことであるのは理解できた。
父がどんな仕事をしているか。
簡単に言えば人身売買。
男娼や遊女となる者を躾けて海外へと売る。
私にその被害が及ぶことはなかったけど。
主犯は父ではなくて、別の女性だということも聞いた。その女性と父が愛人関係にあることも。
女性は自分の子供をも売ろうとしているらしい。外道。そんな言葉が似合うのか、私には分からないけど。父はそんな女性に惚れて、そして操られた。
私を使って薬品の実験をしているのも女性の言いなりになっているかららしい。
そして、通話を終えたのか、父が電話を切ると、何やら小声で呪文を唱える。
短く、そして複雑な呪文。
それを唱え終わると父の姿が消えた。
ふぅー、と大きく息を吐くと、部屋の角から少年が駆けてきた。
「メアリーっ!」
そう言ってくるのはシルト。物凄く心配しているようだった。
昔から、世話焼きだったから。
「メアリー、大丈夫…?あの薬、僕も見たことなかったけど…」
結構短い距離であったにも関わらず、息を切らしながら訊いてくる。
何度目だろう、この痛みは。
全身を隈なく這っていく痛みは神経だけでなく感覚までもを麻痺させていく。
当然といえば当然のことだが、もうあの人以来の来客はなかった。いや、あの人がここに来れたことが可笑しかったのだ。
通常の人間ではこの館に入ることはできない。結界が張ってあるから。
ここに入れるのは、私を作った者、本人、そしてそれに関与している者のみ。
「死んだか?」
そう私の産みの親…父が言う。
「まだ…気も失ってませんよ…?」
喋れるだけの気力があったことに驚いた。
実際は物凄く辛かったが、弱みを見せるとすぐにまた追撃をかけられる。
こんな時でも同じだが、どうせなら少しだけ、有利な状況を作っておきたかった。
父は口角を釣り上げると、すぐに戸棚に入っていた薬品に手を伸ばした。
しかし、それを阻止するように、電話が鳴った。
一度舌打ちをしてから電話に出ると、異国の言葉での会話。
もちろん私には何を言っているかなんてわからなかったけど、それが仕事のことであるのは理解できた。
父がどんな仕事をしているか。
簡単に言えば人身売買。
男娼や遊女となる者を躾けて海外へと売る。
私にその被害が及ぶことはなかったけど。
主犯は父ではなくて、別の女性だということも聞いた。その女性と父が愛人関係にあることも。
女性は自分の子供をも売ろうとしているらしい。外道。そんな言葉が似合うのか、私には分からないけど。父はそんな女性に惚れて、そして操られた。
私を使って薬品の実験をしているのも女性の言いなりになっているかららしい。
そして、通話を終えたのか、父が電話を切ると、何やら小声で呪文を唱える。
短く、そして複雑な呪文。
それを唱え終わると父の姿が消えた。
ふぅー、と大きく息を吐くと、部屋の角から少年が駆けてきた。
「メアリーっ!」
そう言ってくるのはシルト。物凄く心配しているようだった。
昔から、世話焼きだったから。
「メアリー、大丈夫…?あの薬、僕も見たことなかったけど…」
結構短い距離であったにも関わらず、息を切らしながら訊いてくる。
