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嫌われ狸の一生

第21章 第一の窃盗

妻は手くせが悪い。それが最初に明らかになったのは妻の実家から独立して一年になろうとした時。

ボクのキャッシュカードを盗み出して高級ベビー服とかを買い漁ってやがった。
クレジット会社からの利用明細が届いて判明したのだ。

妻をきつく問いただしてみると使用額は30万円にもなっていた。
ふざけるなと、この時ばかりは妻を張り倒した。

育児ノイローゼ気味で可愛いベビー服を着せることだけが楽しみだったとか。ふざけるのもいい加減にしろ。

ボクは現金主義でガソリンだって現金のみ。
このクレジットカードは結婚前に銀行の美人のお姉さんに頼まれて作るだけ作って使わずにしまっておいたもの。

よくもそんなものを見つけ出してバカみたいに使いやがった。

ボクは貧乏育ちのせいかカネやモノへの執着はスゴい。

だからこんなことが許されるワケもない。

保険が入るように死んで保険金で弁済しろとか、夫婦だって窃盗罪は成立するから一生刑務所に入れとか、風俗に沈めてやるから体を売ってでもカネを返せとか厳しく怒鳴った。

子供を生んでから汚いもののようにセックスを嫌う妻にとって体を売れとはかなりツラいものだろうが、ボクは可哀想とか酷いとはこれっぽっちも思わなかった。

毎日母親の悪口を言い、妄想に憑りつかれて暴言を吐き、散々にボクを苦しめたうえに30万円。ふざけるのも大概にしろ。
ゴミクズほどの価値もないヤツが30万円も。

ゴミクズは散らばってるだけで何も迷惑はかけないが、コイツは日々悪口雑言でボクを苦しめ、多大な迷惑をかけている。
ゴミクズ以下だ。

ボクは風俗店に沈めてやると妻を連行した。
妻が泣いていやがるので、体を売るよりは警察に行った方がいいかと怒鳴った。

妻は泣きながら土下座して許しを乞うた。
ぶるぶると震えていた。

もう二度としないから許してくださいと。
両親にも言わないでくださいと震える声で言った。

妻の両親は潔癖症なところがあるのでこんな窃盗事件を知ればどんなに怒るか想像がつく。
ヘタをすればこの時ボクがしてるのと同等かそれ以上の激怒をするかも知れない。

ボクは鬼になりきれなかった。
今回だけは許してやることにした。

結婚、新婚旅行、出産、新居への引越しとけっこうカネが流出していたのに、この時のボクには30万円を払う資力があったのだ。
金持ちだね。

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