テキストサイズ

どうか、

第1章 明野の加害。

「高木」




時計を見るともういい頃合で、それはもうごく反射的に高木を呼ぶ。


そうすると高木はさっと立ち上がり、僕と一緒に食堂に向かう準備を始める。これが毎日のように繰り返されている僕達の日常。




食堂につけば社員食堂の入口近くにある二人席に掛けて、高木は海鮮天丼、僕は唐揚げ定食を頼みに交互に動くのだ。


出会ってすぐの頃、このシステムに高木が「せっかくとった席が誰かに取られたら嫌だろ」と笑ったことを思い出す。








「いただきます」




そういって黙々と食べ始める高木。



「よく海鮮天丼なんて食べれるな」

「桜太郎はよくそんなタンパク質の塊なんか食えるな」



ちなみに桜太郎とは僕の下の名前だ。高木は基本仕事中は名字、プライベートは下の名前で呼ぶようにしているようで、詳しい理由は特に知らない。



ただ、名前を呼ばれることはそんなに嫌ではない。


けれどもそうやって高木に対する喜びが高まるほどに、長い間蓄積されている高木への醜い想いは揺れ動く。




「…飽きないか。毎日天丼で」



「いや?好きで食ってるし。てかそれならお前もな」



「知ってた?ここの食堂の調理員さんの機嫌によって揚げ時間が変わるって」


「…だから飽きないってか」



「ちなみに今日は肉が硬いから機嫌いいみたい」行儀は悪いが食べ差しの肉をつつくと高木は眉を潜めた。


「確かにそれは揚げすぎだろ」

「な?」




大きな一口を頬張ってから、高木は自分のイカ天を箸でつつく。


ふとみると高木の口には自身の髪の毛がひっついていて、可愛いな、なんて27歳の男には似合わない思いを抱きながらもそれを注意する。


すると高木はえくぼをつくって僕に微笑んだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ