
泣かぬ鼠が身を焦がす
第9章 磯の鮑の
今日も結構忙しそうな予定だったし、疲れてたのか杉田さんが溜息をついた
「今って忙しいの?」
「決算期ほどではないが、まぁまぁ忙しいな」
うへぇ
じゃあ今よりもっと忙しい時期とかあるんだ
きつそー
「大変だね」
働いてもない俺が言うのもなんだけど
俺の言葉に「あぁ」と返してきた杉田さんは、また小さく溜息をついた
小さいことなんだけどさ
杉田さんが溜息とかつくと、ちょっと動揺する
俺がなんかしたかなって
きっと被害妄想だけど
小さな不安を抱えながら天井を眺めていると、杉田さんが思い出したように言ってきた
「そういえば」
「なに?」
「俺に帰らないのかと聞いてきたが、ノラは行きたいところはないのか?」
行きたいところ?
「なんで?」
「いや、ずっと閉じ込めておくのも息苦しいかと思ったんだが」
家族とか友達とかって言わないところが優しいよね
俺の事情がわかんないから気使ってくれたんでしょ?
にしても、行きたいところ……
あ
「ある、かも……」
「かも?」
「いや、行きたいってか会いたい人がいる」
今の今まで完全に忘れといてなんだけど、思い出すと会いたいな
