
泣かぬ鼠が身を焦がす
第16章 馬に蹴られる
「ありがとうございました。用事が終わったら連絡します」
「畏まりました」
運転手さんが恭しく頭を下げてから車でいなくなるのを見送って、お店の前に立つ
こんな朝早くだとヒトミさんは大抵裏で寝てるから、と昔懐かしい路地を入った
少し行くと扉があって、そこを拳で何度か叩く
「ヒトミさーーーん、あーーけーーてーー」
すると、奥からガタガタガタ、と音が聞こえて勢いよく扉が開いた
そして中から化け物……いや、ヒトミさんが出てくる
「うるっっっっさいわね!!!今何時だと思って……って、あら純じゃない。あのイケメンにもうフられたの?」
「縁起の悪いこと言うなっつの。違うよ。相談に来たの」
「そうだん……」と俺の言葉を反芻しながら欠伸をしたヒトミさんは
「まぁ、入んなさい」
と俺を中に招き入れた
少し散らかったバックヤードのソファに座ると、また大きな欠伸をしたヒトミさんがコーヒーを淹れてくれる
「ありがと」
「それで? 相談ってなぁに? アンタまだあのイケメンのことでうじうじしてるの?」
「うじうじって……。実はさ……」
俺は今の拓真さんとの関係性と、茜さんのことを話した
