
泣かぬ鼠が身を焦がす
第18章 遠くなれば薄くなる?
うーん、と唸って部屋に戻った
なんかあったかな
仕事でトラブルとか?
帰ってこない原因を考えて、ふと浮かんだ『事故』という単語を頭を振って振り払う
それでも、1度浮かんでしまった考えは簡単には消えてくれなくて
「いやいやいや、ないない。そんなことになってたら社員さんたち今頃大騒ぎだよ」
大丈夫、大丈夫
言葉と思考でなんとか否定する
けど、やっぱり不安なものは不安
これだけ大きい会社の社長なら、何かあったら報道されるよな
とテレビを点けた
それから更に2時間が過ぎ、3時間が過ぎても、拓真さんは帰ってこない
「……」
一緒に食べると思って1口も手をつけていない夕食はすっかり冷たくなっている
食事をする気にもなれず、ただ心配で眠れもせず
俺は結局日付を越えて朝が来るまで部屋でテレビを見続けた
外が明るくなって、鳥の囀りが聞こえる
朝の報道番組が始まって、拓真さんに関するニュースが1つもないことに安心した
なのになんで
帰ってこないの
誕生日、きちゃったよ
俺はソファの上で蹲った
会社の出勤時間が近づき、社長室を秘書の人たちが出入りしている音がする
