
泣かぬ鼠が身を焦がす
第19章 七転び八起き
俺は拓真さんの背中に3度めの頭突きをした
そして
「あんまり馬鹿にすると、また泣くぞ」
潤んだ声で伝える
すると拓真さんは俺を1度背負い直して
「悪かった」
とまた謝った
「可愛くて、つい顔が緩んだんだよ」
「……可愛くない」
拓真さんのが可愛かった
俺なんか今顔めちゃくちゃじゃん
拓真さんから顔は見えなくても、声だけだってガサガサなのに
可愛くなんかない
可愛いわけない
でも拓真さんは前を向いて歩きながら嬉しそうな声で続ける
「可愛いよ。早く抱き締めたい。ベッドまで待てない。今すぐこの場で純をめちゃめちゃにしたいぐらい、可愛い」
「なっ……何言ってんの!?」
いつもは言わないような言葉の数々に、俺の顔の温度が上がる
馬鹿……
その後も続けようとした拓真さんからの「可愛い」ラッシュを、俺は手で拓真さんの口をふさぐことで防いだ
なんだよ、急に……
拓真さんどうしちゃったわけ……?
はずかしーっつの
この場で……って、拓真さんアオカンの願望でもあんの?
高まる鼓動を抑えつつ背負われていたらもう会社が見えてきて、そこからはずっと無言で拓真さんの背中に身を預けた
