
泣かぬ鼠が身を焦がす
第26章 嘘八百
あれだけ必死に頼み込まれて、俺に止める権利なんて……
だが
「……」
視線が自然と扉に移った
秘書たちのいる方へと繋がる扉じゃない
家に帰れないほど忙しかった俺の、仮眠用にと作った部屋へと繋がる扉
見えないにも関わらず、その向こうにあるはずの熱がないことが心でわかっているから
辛い
「失礼致します。お飲み物お持ちしました」
1人で感傷に浸っていると、静がコーヒーを持って入ってきて俺の前に置いた
「休憩をなさって下さい。午前に終わらせなければならない仕事はもう終わっていらっしゃるのでしょう?」
「あぁ。……朝も早かったから、少し仮眠を取ってくる」
「わかりました。1時間ほどお時間ございますのでゆっくりなさって下さい」
俺はコーヒーカップを持って立ち上がった
純がいた頃はこんなことはなかったな
仕事の途中で抜けるなんて
あぁ、いや
あったな
ついこの間
部屋に入った俺はソファに腰かけた
この間、仕事中に純が突然叫びだしたことがあった
扉を開けた俺に純は『ごめんなさい』と言った
『迷惑をかけてごめんなさい』か
俺はあの時
俺が守ると言ったな
