
泣かぬ鼠が身を焦がす
第26章 嘘八百
守った、か?
あれだけ嫌がっていた純を、母親に受け渡したことが
「…………わからない」
1人で過ごすにはあまりに広い部屋に呟いた言葉は誰の耳に届くこともなく解けた
正解が何かなんてわかるはずもない
何を優先すべきかもわからない
それでも俺は、純がこれまで出来なかった当然のことが出来るように望んだんだ
俺は純に幸せになってもらいたいんだ
それが俺のエゴでも
俺は入ってきた時にもしたように部屋を見渡した
何度確認してもいつもなら「おかえり」と言って話しかけてくれる純はいない
会いたい
自分で送り出したはずなのにそう思っている自分が恨めしい
テーブルに置いておいたコーヒーを1口飲む
口の中に独特な苦味が広がって少しだけ頭を冴えさせた
「……」
携帯電話を開く
メールは、返ってきていない
母親とこれまでのことを話したりしているだろうか
父親とまた何かあったりしないだろうか
監視カメラ、なんて条件を母親には飲んでもらったが、すぐにそんなものを取り付けることなんて出来ない
それまではこうして今何をしているかの想像をするだけ
その場で業者に電話をして依頼してしまえば良かった
いや、そういう問題でもないか
