
泣かぬ鼠が身を焦がす
第26章 嘘八百
それと、お手伝いさんか
俺は涙に濡れた顔を袖口で拭った
そして立ち上がると、勢いよく扉を叩く
その音に気がついたらしいお手伝いさんがパタパタと俺の部屋の前に来るのがわかった
「どうされましたか?」
「あ、あの、トイレ……行きたいんですけど……も、やばくて……っ」
俺の切羽詰まったような演技に、お手伝いさんが
「あ、そうですよね! ちょっと待って下さいっ」
とどこかへ去っていく
そしてすぐに戻ってきて、扉の鍵を開けてくれた
「申し訳ございませんでした。どうぞ」
「あぁぁ……すみません、ありがとうございます」
印象が良いに越したことはないから、俺は出来るだけ愛想よく笑いかける
初めて見たけど、鍵は南京錠か
っつーことは、破壊は無理かな
「こちらです。……っあ、すみません。ご存知ですよね……」
「いえ、ご丁寧にありがとうございます」
どことなく恥ずかしそうなお手伝いさん
若い男だから、多少緊張とかしてるんだろうか
いや、トイレなんて話題だからか?
とにかく冷淡な人じゃなくてよかった
そこそこは話が通じそう
トイレに入ろうとすると、扉の前で立ち止まって待つ姿勢のお手伝いさん
