
泣かぬ鼠が身を焦がす
第26章 嘘八百
出張とか
そういうのがないと
脱出してもすぐバレたんじゃ意味がない
きっと一瞬で捕まって終わりだ
それからまた拘束が厳しくなったらもうお手上げ
俺だけの力じゃどうにもならないし
様々な方向に思考を巡らせながらトイレを出ると、宣言通りお手伝いさんはまだ立っていた
俺と目があうとパッと逸らす
……ごめんね、男のトイレになんて付き合わせて
部屋に戻る道中であと1つ質問しておこう、と思って声をかけるとこっちが驚くほど肩を震わせた
「えっ……ごめんなさい?」
「い、いいいいいえ……私の方こそ、大変失礼いたしましたっ」
なんだろ、この人
めっちゃ扱いやすそう
友達になったら協力してくれたりしないかな
でも……うぅん
距離をすぐ詰めるのは得策じゃなさそう
「母さんってさ、今います?」
「え、と…………奥様は、昨晩からこちらにはいらっしゃいません……」
お泊りで男遊びってことね
オッケー
母さんはもう心配ないや
「父さんは?」
自分があの人のことを「父」と呼ぶことに気持ち悪さを感じつつも尋ねると、またお手伝いさんは首を横に振った
「大臣も公務でいらっしゃいません」
「そうですか」
