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泣かぬ鼠が身を焦がす

第5章 猫の前の


しゅん、と項垂れた伊藤さんはどこか悲しげで
ちょっとだけかわいそう

冗談でも「一目惚れ」なんて言ってもらえて、やっぱり嬉しかったし


「とにかくここで話すことじゃないな。ノラはシャワーでも浴びて宿題を解いてろ。静は俺と来い」
「……はい……」


杉田さんの気迫に圧されて俺も「わかった」と呟く

それから伊藤さんは杉田さんに連れて行かれてしまって、杉田さんが戻ってくるより先に茜さんが俺の部屋にやってきた


「晩御飯だよ」
「茜さん」


茜さんは伊藤さんと俺とのことを知ってるのか知らないのか、いつもの通り微笑んでいる


こういう時っていつも通りの人の方が怖いよね……
茜さんに軽蔑されたりすんのはやだな


でも


「今日はねぇ……」


と夕飯の説明をする茜さんに特に気を使ってるとかって雰囲気はない


知らないのかな
よかった


「ありがとー茜さん」
「うん。食器下げるのは社長がやるみたいだから、また明日ね」
「はぁい、また明日」


杉田さん、律儀に今日も来てくれんのか

何か言われるかな
出てけーとか

あーあり得る

そしたら茜さんのご飯も今日が最後かなぁ

せっかく美味しかったのに

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