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泣かぬ鼠が身を焦がす

第30章 歩く足には


一言でも発したら泣くかも、なんて思っていたら拓真さんが腕時計を見ながら茜さんに


「茜、そろそろ朝礼の時間だろう。行った方が良いんじゃないか?」


と言った

茜さんはハッとしたように自分も時間を確認する


「あ、本当だ! 急がなきゃ! え、と……では、失礼します」
「あぁ」


茜さんは涙目なのが恥ずかしいのかちょっと照れた感じで拓真さんに頭を下げる


「ノラ、も……」


そして今度は俺に向き直ってくれたけど、名前を呼ぶと時にちょっとだけ変な顔をしたから俺は笑いながら


「純って呼んで。茜さん」


と言ってあげた

そしたら茜さんの顔はまた笑顔に戻る


「うん。純も、またね。奥村さんも行きましょう」
「はい! 社長、純様失礼します」
「あぁ」
「2人とも仕事頑張ってね」


俺が手を振ると、2人も少しだけ振り返してくれた

でも考えてみれば社長の前で呑気に手を振るとかやりづらかっただろうに、2人とも優しいな

そんな風に考えていたら、拓真さんに名前を呼ばれた


「純」
「なに?」


振り返ると、手招きをされる


「?」


とりあえず俺は言われるがまま近づいた

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