
泣かぬ鼠が身を焦がす
第30章 歩く足には
俺がある程度まで近づくと、拓真さんは少しだけ両手を左右に広げる
「?」
「おいで、純」
え、と……それは
自分から抱きつけ、ってこと?
「……なんで……」
言われた通りにするのも癪で俺が渋ると、拓真さんの方から近づいてきて抱き締められた
「さっき泣きそうになってただろう。泣いて良いぞ」
「!」
き、気づいてたのか
「別にいい……っ、もう引っ込んだから!」
見事に図星を突かれたのが恥ずかしくて俺は拓真さんの腕の中で抵抗する
でも俺の力じゃ拓真さんの腕を振りほどくなんて出来なくて、それどころかより強い力で抱き締められてしまった
少しだけ肺が圧迫されて苦しい
「むー……」
くそ
なんなんだよ
どれだけ抵抗しても無駄だと悟った俺が大人しくなると、拓真さんは俺の耳に口を寄せた
「純の笑顔は独占出来ないみたいだからな。泣き顔だけでも、独占させてくれ」
そしてこんなことを言われて、俺は顔から火が出るかと思った
「なっ……なにそれ、嫉妬? ちょっと拓真さんさっきから嫉妬深すぎるんじゃない……っ?」
照れてる、なんて気づかれたくなくて必死で強がってみる
